一冊だけの本を扱う本屋のためのビジュアルアイデンティティ構築
一人の書店員が思い描き続けた読者と本の関係
森岡書店銀座店のオーナーである森岡督行氏は古い本や貴重な本が集まる街、神田古書街で8年間書店員として働いた経歴をもちます。のちに独立し、立ち上げた森岡書店茅場町店で本の企画展を数多く行った経験から、「一冊の本を売る書店」というアイデアにたどり着きました。「一冊だけ」だからこそ生まれる本への深い理解。必然的に生まれる作者と読者の密な関係。本を読む本質的な楽しみがそこに生まれるのでは…
森岡氏の「一冊の本を売る書店」実現を決定的にした不思議な出会いがありました。2014年9月2日、Takramが定期的に開催するレクチャーイベント “Takram Academy” に株式会社スマイルズの遠山正道氏を講演者として迎えました。遠山氏が掲げたテーマは「新しいビジネス」で、参加者が立案した新しいビジネスを発表し、遠山氏が賛同すれば実際にビジネス化へのチャンスが得られる(かもしれない)という趣旨の回に、参加者としての森岡氏の姿がありました。森岡氏は「アトム書房の復活 ⇨ 一冊の本しかない店」と書かれた一枚のプレゼンシートを手に、彼の描く新しいビジネスのプレゼンテーションを行いました。このやりとりが、森岡氏が長年描いてきた新しい書店の夢が現実に近づくきっかけとなりました。
森岡書店銀座店
− 昭和初期に建てられた歴史的近代建造物「鈴木ビル」
ブランディングデザイン
ブランドロゴ
ブランドロゴ – 「場所性」と「菱形」の出会い
森岡氏は神田の古書街の書店に勤務していた時代に、のちに茅場町店となる昭和建築の物件を見つけ一目で気に入り、勢いで契約してしまいました。茅場町店の開店後も、決まったロゴやシンボルマークは存在しませんでした。代わりに「住所表記と屋号を同一の書体で記載する」というゆるやかな指定により、各種のパンフレットやウェブサイトなどに表記していました。また銀座店の計画に際しても、遠山氏との共同出資による企業設立に先だって、先述のかつて日本工房が入居していたというビルの「場所性」が両者の決断材料となっていました。
これらのエピソードからもわかる通り、森岡氏は「場所性」、つまり建築や住所そのもの大切に書店を運営してきました。菱形のなかに、この「場所」の側面を持たせられないか – そこでTakramは、図形のなかに「一室の書店の空間」という意味を表現することにしました。
非常にテキストの分量が多いデザインとなっていますが、これは上記のように場所性、住所表記を重んじる森岡氏の想いが反映されているのです。上から、屋号、ブランディングステートメントの一部、住所表記、の全てを以って、一つのブランドロゴとして機能します。
ブランドステートメント
森岡書店は、一冊だけの書店です。
一冊だからこそ、解釈はより深く。
森岡書店は、一室の小さな書店です。
一室だからこそ、対話はより密に。
一冊、一室。
森岡書店。
森岡書店のための文字
森岡書店 企画室
森岡書店は、従来のいわゆる書店の枠組みにとどまらない種々の活動を推進していくため、新たに「森岡書店 企画室」を立ち上げました。企画室のメンバーは、店主の森岡督行氏を中心に、BNN新社の吉田知哉氏、Takramの渡邉康太郎・山口幸太郎からなります。今後、商品開発や空間・展示のプロデュースなどを始め、領域を超えて活動していきます。
なお吉田氏は2014年、レナード・コーレン著『Wabi-Sabi わびさびを読み解く for Artists, Designers, Poets & Philosophers』の日本語版を手がけ、巻末エッセーとして森岡氏・渡邉ふたりの文章を編集しました。森岡氏とTakramの出会いは、この一冊がきっかけとなりました。
森岡書店銀座店
森岡書店に置かれる本は、一冊だけです。期間は一週間。 そのあいだ、本にまつわる様々なイベントを催します。 主題につながる展示を企画したり、 著者本人を招き、トークや朗読の場を持ったり。 それにより、本の絆が、次第に深まっていきます。
住所:東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1階
営業時間:13:00〜20:00 月曜休
電話:03-3535-5020
Project Information
- Client: Morioka Shoten
- Expertise: Brand
- Year: 2015
Project Team
- Project Direction: Kotaro Watanabe
- Creative Direction: Yoshiyuki MoriokaKotaro WatanabeTomoya Yoshida (AZ Holdings)
- Art Direction & Copywriting: Kotaro Watanabe
- Art Direction & Design: Kotaro Yamaguchi
- Support: Ken Fujiyoshi