数字で見るTakram
企業の価値や将来性は、工場や設備といった目に見える資産で測るというのは過去の話となり、競争力の源泉はいま、ブランドや技術、人材といった財務三表では表せない無形の資産へと移ってきています。「人にどう投資しているか」は、企業の将来性を判断するうえで欠かせない情報になり、「人」への投資を数字で語ることが求められています。
こうした流れを受けて、2020年にいち早く米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に「年次報告書(Form 10-K)」での人的資本(Human Capital)に関する情報開示を義務づけました。日本でも「人材版伊藤レポート」や政府の「人的資本可視化指針」を経て、2023年3月期の有価証券報告書から開示が義務化されました。
Takramは上場していないので、開示義務はありません。しかし、それでもこうして開示するのは、わたしたちのユニークなアウトプットの源泉が、人と組織のあり方そのものにあると考えているからです。
Takramの組織運営については、社外の方から質問を受けることがよくあります。外部での講演、組織運営に携わる方との会話、あるいは採用面接の場で。「独立しても十分にやっていけるメンバーが、なぜ辞めずに在籍し続けているのか」「トップダウンでレールを敷いているわけでもないのに、なぜユニークなアウトプットを生み出す人材が育つのか」。
自分たちでは当たり前と思っていることは、まだまだ一般的ではないということかもしれません。いま改めて自分たちをふりかえるために、数字と言葉で確かめてみようと考えました。
良い数字も、まだ途上にある数字も、Takramの現在地を表す指標として率直に公開していきます。
共通のものさしで
はじめに、多くの企業が開示する標準的な指標から見ていきます。人材の定着や働きやすさなど、すべての会社を定点的に測る、いわば共通のものさしです。

メンバーは65名。2016年の27名から、9年で約2.4倍に増えました。定着率は92.4%、在職年数は7.2年(いずれも直近2年の平均)です。デザインやエンジニアリング領域には「人材の入れ替わりが早い」「残業が多い」といったイメージをもたれることが少なくありませんが、「数字で見るTakram」の輪郭は少し違って見えてきます。
規模については、拡大を優先せず、カルチャーを大切にしながら着実に成長してきました。また、毎週、全メンバーを対象に行っているエンゲージメントサーベイの上位項目を見ると、メンバーがTakramのカルチャーをどう捉えているのかが見えてきます。ここまでは人的資本開示の共通のフォーマットに沿った数字です。
ただ、共通のものさしだけでは、Takramという組織の輪郭までは見えてきません。例えば、「女性管理職比率」── 多くの企業が開示するこの指標を、Takramは示すことができません。なぜならば、Takramには管理職という役職そのものが存在しないからです。標準的な指標で測れないこと。そこにこそ、Takramのユニークさが表れていると言えそうです。
Takramのものさしで
では、わたしたちらしさを表す指標とはなにか。いくつか挙げてみます。
65名のメンバーに対して、肩書(タイトル)は39種類あります。そのうち27種類は、Takram内でひとりだけが名乗るものです。肩書は組織が決めるものではなく、それぞれのプロジェクトやめざしたいキャリアが決めていく。その価値観のもと、Vision Designer、Context Designer、Technology Translatorなど、おそらく一般的な職種の一覧にはない呼び名が、それぞれのキャリアやビジョンの数だけ生まれています。

部署も固定されたチームもありません。ひとりが複数の領域を越境して働くことを前提に、プロジェクトごとに人が集まり、また散らばっていく。この流動性が、アウトプットを固定化させないことにつながっています。
学びへの投資でも、金額の大きさより「使われ方」にTakramらしさが表れています。外部の講座やワークショップへの参加費(Lecture Support)、承認プロセスのない書籍購入(Book Purchase)。企業によっては同様の制度があると思いますが、ここでもなにを学ぶかは組織が決めるのではなく、メンバー一人ひとりに委ねています。利用事例もあわせて見ると、制度の使われ方に幅があり、メンバーそれぞれのアイデアが表れていることがわかります。
そして、学びと同じくらい「つながり」にも投資しています。複数メンバーでのアクティビティのサポート(t×t)、月に一度のデリバリーランチ(Tak Lunch)。オンラインとオフラインのハイブリッドワークで働くからこそ、メンバー同士の会話に投資する。普段はそれぞれの場所で活動しながらも、交流やイベントのときには自然と人が集まる。その場(機会)こそが、Takram内のコラボレーションのきっかけとなり、次のアイデアを生むと考えています。

数字の、その先へ
なぜ肩書がこれほど多様なのか。なぜ独立や転職という選択肢をもつ人材が、Takramに所属し続けるのか。
ここまでの数字や制度は、実は結果であって、めざしたものではないというのが正直な話です。すべては「どうすればTakramがユニークなアウトプットを生み出し続けられる組織でいられるか」という問いから始まっています。
これらの取り組みについて話をすると、その制度ばかりが注目されがちですが、重要なのは、なにをゴールとして、数字の背後にある組織のかたち ── 階層をもたない体制、自走を支える仕組み、そしてそれらを健全に保つ文化 ── がつくられたのかです。
次回から、それらをひとつずつひもといてお伝えしていきます。




