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Feb 19, 2026/Writing

デザインの前提をもう一度問い直すために ── TakramCircular Design 01

“広義”の名の下にデザインが課題解決という本来的な役割を取り戻すなかでデザイナーに求められるマインドセットとはいかなるものか ──Circular Design Week 2025への参加をきっかけに思いを同じくするTakramメンバーでいま改めてデザインの前提を問い直すシリーズTakramCircular Designをスタート01ではビジネスデザイナー菅野恵美によるFrom Our Editorsをお届けします
Credits:
Photography:
  • Yoichi Nagano
4min read

はじめに

- Takramサーキュラーデザインを資源循環の仕組みではなく近代的な単元的世界観を超えるための問いとして捉えています

- AI時代において短期的成果が容易になるいまわたしたちが長期的価値との緊張関係をどう設計できるのかを考えますこれは新しい手法の提案ではなくデザインの前提そのものを問い直す試みです

- この連載ではこのような背景にある問題意識とこれからのデザインのあり方について共有していきます

中学生がつくったアプリが数百万回ダウンロードされた80代のAIアーティストの作品に数千万円の値がついた── こうしたニュースにわたしたちはもはや驚かなくなりました

AIは誰をも急速にデザイナーにエンジニアにコンサルタントに変えています手間なく即座にニーズに応答し最適解を生成していくことは価値観多様化の時代のなかであるいはどんな批評も機能しづらい時代のなかで合理的で現実的なアプローチに思えます

Takramはこれまでビジネステクノロジークリエイティブの交差点でプロダクトサービス組織研究開発公共領域など多様なスケールのプロジェクトに取り組んできましたそのなかでわたしたちが向き合ってきたのは何をどうつくるかだけでなくなぜ何のためにつくるのか

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しかし2026年現在そのなぜを考える時間そのものが静かに圧縮されているように感じますそれはわたしたちが長年磨いてきた最適化の思想がかつてない速度で日常化した結果でもあります

デザインが機能してきたからこそ見えなくなったもの

デザインは組織や企業活動のなかで確かな役割を果たしてきましたユーザー理解を起点に課題を定義し解決策をかたちにし成果を測るこのアプローチは多くのイノベーションを生み出しデザインを経営の中核へと押し上げました

特に人工物や機械ー人間系の調和を図るものとして技術・開発者優位の設計になりがちなものに対抗し利用者にとって理解しやすく使いやすいものへと翻訳するこの次元におけるデザインの有用性はこれからも失われることはないでしょう

しかし同時にデザインはとして広義に解釈され汎化されすぎてもきましたKPIロードマップペルソナ課題設定計測可能で再現性の高い枠組みのなかに組み込まれることでデザインはゴール駆動型のアプローチへと変質しリサーチは誰かのニーズを特定するための手段へと収斂しAIによる最適解生成がさらにその流れを加速させています

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例えばレジ袋はパッケージデザイナーのステン・グスタフ・チューリンによって店舗から駐車場までの徒歩10分間のためのバッグをいかに安く大量製造するかに対する鮮やかな解決策として生み出されました一方でいまや年間15000万トンの廃棄物を生み出し年間10万匹の海洋動物及び100万羽の海鳥の死をもたらしてもいます(*)

大抵の場合デザインの恩恵を享受するのは特定の人間であり説明可能性や誠実さを追求するはずのデザインは結局のところ関心領域や免責範囲の極端な縮減を意味しつつあります

これはデザインの失敗というよりも近代的合理性が極めてうまく機能した結果ですただしその合理性は多元的関係性や長期時間軸を扱うには構造的に不向きでした

二つの要請のあいだで

現在のデザイン実践は二つの要請のあいだに置かれています

- 再現性と説明責任を伴う近代的な意思決定
- 長期的影響と多元的な関係性を扱う複雑な世界認識

この二つは安易に統合できるものではありませんどちらかに寄ればもう一方は機能不全を起こしますだからこそ短期的成果を建前とし長期的価値を本音としてもつダブルスタンダードはよく見られますしかしこれは本来的ではありません

なぜならこれら二つを交わらないものとして断絶することは短期合理性を事実上の主軸として温存し続けることになるからですそもそもこのアプローチは政治的戦術であってもデザイン的設計ではありません

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わたしはTakramビジネスデザイナーという肩書をもっていますかつてはビジネスとデザインを接続すること自体が挑戦でした

しかしいまは両者が広義化しすぎたことで逆に本当の意味で接続できている人は少ないのではないでしょうかサーキュラーという逼迫したテーマに向き合いながらその橋を架け直す必要があると感じています

わたしたちが今後めざしていきたいのは二つを同時に抱えることではなく判断のモードを適切に切り替えられる瞬間や構造を設計することですいかに振り子が行き来し続けるような設計が可能かこれからのデザインに求められる知性や態度でありビジネスデザインの対象となるのではないでしょうか

実践を通して見方を更新していく

Takram変化の兆しを捉え未来の可能性を構想しそれを実装可能なかたちへと翻訳する存在でありたいと考えていますわたしたちは本当に変化に向き合えているのか短期合理性のなかに閉じた実装を繰り返してはいないかいま改めて問う必要があると考えています

わたしたちはその具体的な実験場のひとつとしてサーキュラーというテーマに向き合おうとしていますサーキュラーエコノミーは単なる環境配慮のトレンドではありませんそれは近代的・単元的世界観を超え多元的関係性を再設計するためのグローバルアジェンダです

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このシリーズではフィールドリサーチや企業・研究者との協働を通じてこれらの考え方がどのように判断に影響したのか従来のデザインプロセスでは見落とされていた論点は何か成果や限界はどこにあったのかといったことをできる限り具体的に共有していきたいと思っています

世界の見方が変わらなければどれほど洗練された手法も空転してしまうそして世界の見方は実践を通してしか更新されないこのnoteその往復の記録でありこれからのデザインと経営のためのプロトタイプです

Next Issue
02ではCircular Design Week 2025のフィールドリサーチで巡った京都や滋賀の様子から得たインサイトをお届けするとともにこれからのデザインが向かうべき在り方について考えます
02 : 京都フィールドリサーチ編につづく
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Megumi Kanno
Business Designer, Project Director

慶應義塾大学総合政策学部在学中デザインシンキングやデザインリサーチスペキュラティブデザイン等を学ぶ卒業後は株式会社ADKにてストラテジックプランナーとしてナショナルクライアントからスタートアップ企業まで数十社の多様なカテゴリのマーケティングやブランディングを国内及びグローバル市場に向けて担当

2019年よりTakramに参加エンジニアリングやクリエイティブとビジネスを架橋するビジネスデザイナーとして長期成長性や耐久性のあるビジネス創造・支援に取り組む

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Takafumi Yano
Culture & Relations, Editor
メディアを越えて人や事象の媒介となるエディターメディアプランニングにとどまらず編集という手法を用いてコミュニケーション場づくりなど多種多様なアウトプットに対応する企業PR誌などの編集制作からキャリアをスタートし編集ワークショップスーパースクール11にて 編集者/クリエイティブディレクターの後藤繁雄氏に師事その後生活実用誌暮しの手帖テックカルチャーメディアWIRED日本版でプリントやデジタルコンテンツ制作などを手がける趣味は100km超の野山を駆け抜けるウルトラディスタンスのトレイルランニング