はじめに
- Takramは、サーキュラーデザインを「資源循環の仕組み」ではなく、近代的な単元的世界観を超えるための問いとして捉えています。
- AI時代において短期的成果が容易になるいま、わたしたちが長期的価値との緊張関係をどう設計できるのかを考えます。これは、新しい手法の提案ではなく、デザインの前提そのものを問い直す試みです。
- この連載では、このような背景にある問題意識と、これからのデザインのあり方について共有していきます。
「中学生がつくったアプリが数百万回ダウンロードされた」「80代のAIアーティストの作品に数千万円の値がついた」── こうしたニュースに、わたしたちはもはや驚かなくなりました。
AIは誰をも急速にデザイナーに、エンジニアに、コンサルタントに変えています。手間なく即座にニーズに応答し、最適解を生成していくことは、価値観多様化の時代のなかで(あるいはどんな批評も機能しづらい時代のなかで)、合理的で現実的なアプローチに思えます。
Takramはこれまで、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの交差点で、プロダクト、サービス、組織、研究開発、公共領域など、多様なスケールのプロジェクトに取り組んできました。そのなかで、わたしたちが向き合ってきたのは、「何を、どうつくるか」だけでなく、「なぜ、何のためにつくるのか」。

しかし、2026年現在、その「なぜ」を考える時間そのものが、静かに圧縮されているように感じます。それは、わたしたちが長年磨いてきた「最適化」の思想が、かつてない速度で日常化した結果でもあります。
「デザイン」が機能してきたからこそ、見えなくなったもの
デザインは、組織や企業活動のなかで確かな役割を果たしてきました。ユーザー理解を起点に、課題を定義し、解決策をかたちにし、成果を測る。このアプローチは、多くのイノベーションを生み出し、デザインを経営の中核へと押し上げました。
特に、人工物や機械ー人間系の調和を図るものとして、技術・開発者優位の設計になりがちなものに対抗し、利用者にとって理解しやすく使いやすいものへと翻訳する。この次元におけるデザインの有用性は、これからも失われることはないでしょう。
しかし同時に、デザインは「型」として広義に解釈され、汎化されすぎてもきました。KPI、ロードマップ、ペルソナ、課題設定。計測可能で再現性の高い枠組みのなかに組み込まれることで、デザインは「ゴール駆動型のアプローチ」へと変質し、リサーチは「誰かのニーズを特定するための手段」へと収斂し、AIによる「最適解生成」がさらにその流れを加速させています。

例えば、「レジ袋」はパッケージデザイナーのステン・グスタフ・チューリンによって「店舗から駐車場までの徒歩10分間のためのバッグをいかに安く大量製造するか」に対する鮮やかな解決策として生み出されました。一方で、いまや年間1億5000万トンの廃棄物を生み出し、年間10万匹の海洋動物及び100万羽の海鳥の死をもたらしてもいます。(*)
大抵の場合、デザインの恩恵を享受するのは「特定の人間」であり、説明可能性や誠実さを追求するはずのデザインは結局のところ関心領域や免責範囲の極端な縮減を意味しつつあります。
これはデザインの失敗というよりも、近代的合理性が極めてうまく機能した結果です。ただし、その合理性は多元的関係性や長期時間軸を扱うには構造的に不向きでした。
二つの要請のあいだで
現在のデザイン実践は、二つの要請のあいだに置かれています。
- 再現性と説明責任を伴う、近代的な意思決定
- 長期的影響と多元的な関係性を扱う、複雑な世界認識
この二つは、安易に統合できるものではありません。どちらかに寄れば、もう一方は機能不全を起こします。だからこそ、短期的成果を建前とし、長期的価値を本音としてもつダブルスタンダードはよく見られます。しかし、これは本来的ではありません。
なぜなら、これら二つを交わらないものとして断絶することは、短期合理性を事実上の主軸として温存し続けることになるからです(そもそもこのアプローチは政治的戦術であっても、デザイン的設計ではありません)。

わたしはTakramで「ビジネスデザイナー」という肩書をもっています。かつては、ビジネスとデザインを接続すること自体が挑戦でした。
しかし、いまは、両者が広義化しすぎたことで、逆に本当の意味で接続できている人は少ないのではないでしょうか。サーキュラーという逼迫したテーマに向き合いながら、その橋を架け直す必要があると感じています。
わたしたちが今後めざしていきたいのは、二つを同時に抱えることではなく、判断のモードを適切に切り替えられる瞬間や構造を設計することです。いかに振り子が行き来し続けるような設計が可能かが、これからのデザインに求められる知性や態度であり、ビジネスデザインの対象となるのではないでしょうか。
実践を通して、見方を更新していく
Takramは、変化の兆しを捉え、未来の可能性を構想し、それを実装可能なかたちへと翻訳する存在でありたいと考えています。わたしたちは本当に変化に向き合えているのか。短期合理性のなかに閉じた実装を繰り返してはいないか。いま改めて問う必要があると考えています。
わたしたちはその具体的な実験場のひとつとして、サーキュラーというテーマに向き合おうとしています。サーキュラーエコノミーは、単なる環境配慮のトレンドではありません。それは、近代的・単元的世界観を超え、多元的関係性を再設計するためのグローバルアジェンダです。

このシリーズでは、フィールドリサーチや企業・研究者との協働を通じて、「これらの考え方が、どのように判断に影響したのか」「従来のデザインプロセスでは見落とされていた論点は何か」「成果や限界はどこにあったのか」といったことを、できる限り具体的に共有していきたいと思っています。
世界の見方が変わらなければ、どれほど洗練された手法も空転してしまう。そして世界の見方は、実践を通してしか更新されない。このnoteは、その往復の記録であり、これからのデザインと経営のためのプロトタイプです。
Next Issue
02では、Circular Design Week 2025のフィールドリサーチで巡った京都や滋賀の様子から得たインサイトをお届けするとともに、これからのデザインが向かうべき在り方について考えます。
(02 : 京都フィールドリサーチ編につづく)
参考
(*)明石書店『ポストヒューマニズムデザイン―私たちはデザインしているのか?』ロン・ワッカリー (著)
(**)ビー・エヌ・エヌ『多元世界に向けたデザイン ラディカルな相互依存性、自治と自律、そして複数の世界をつくること』アルトゥーロ・エスコバル (著)





