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Jul 13, 2026/Writing

音を通していつものまちを再編集する ── Ways of Seeing: Espace Louis Vuitton Tokyo #3 Report

Takramとエスパス ルイ・ヴィトン東京がコラボレーションするカルチュラルプログラムWays of Seeing現在開催中のリナ・バネルジーの個展You made me leave homeに合わせて見慣れた街である表参道をで歩くワークショップをfor Citiesと田中堅大さんとともに開催しました
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Ways of Seeing新たな視点や深い洞察を通してアートの楽しみ方や日常での豊かな気づきを引き出すことを目的としたプログラムですアートの外側からの視点をもたらしてくれる多彩なゲストとともにアートあるいはアーティストを考察していきます

3回となる今回はリナ・バネルジーの個展You made me leave homeに合わせて音を通していつものまちを再編集すると題したフィールドレコーディングとサウンドスケープの概念を学ぶワークショップを開催しました

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左から都市音楽家の田中堅大さんfor Citiesの杉田真理子さんと石川由佳子さん

コラボレーターには国内外の都市を横断しながら活動するデザインスタジオfor Citiesの石川由佳子さんと杉田真理子さんそしてギタリスト・サウンドアーティスト・都市音楽家として活動する田中堅大さんを迎えました

表参道をで歩く

リナ・バネルジーはインドコルカタに生まれ米国ニューヨークを拠点に活動するアーティストです彫刻インスタレーションドローイングと表現手法は変遷しながらも一貫して移民性や多文化性ジェンダー帝国主義といったポスト・コロニアル以後の世界をテーマに作品へと反映してきました1990年代後半旧植民地圏のアーティストが世界的に紹介されはじめたポストコロニアリズムの潮流のなかで注目を集め以来世界各地で活躍しています

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また南アジア系ディアスポラであることを背景に異なる文化を横断しながら世界をめぐる“旅”そのものをかたちにしてきましたそれは物理的な場所の移動だけでなくアイデンティティや歴史のあいだを行き来し自らの立ち位置や視点を変えていく旅でもあります

今回のワークショップではそうした“視点の変化”によって世界をめぐること ── 近くにいながら遠くへ旅をすること ── 表参道を象徴する音=サウンドマーク)」を探すことを重ね合わせ参加者に“この街の外側の人”として表参道を観察してもらいました

見慣れた街ほど新鮮な気持ちで眺めるのは難しいものです表参道はさまざまなメディアを通してすでに多くの人が“視覚的”に知っている街ですましてや毎日そこに通う人たちにとってこの街は“もう見尽くした場所”でもあります

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しかし視点をからに移してみるとどうでしょうか音で街を捉え直すと表参道ってこんな音がするのという驚きが意外なほど多くの自然の音とともに立ち上がってきます

音は悪者ではなく文化的な風景

ワークショップはまず全員で目を閉じて15秒間耳を澄ませるところから始まりました普段は視覚情報に頼りきっているわたしたちも実は常に無数の音に囲まれて生きている石川さんはそう語りかけます

興味深いのは一枚の街の写真を見せられただけで参加者が足音話し声信号の音を自然に想像できたことですわたしたちは音と自分の体験をセットで記憶しています同じ環境や文化を共有しているからこそこの風景にはこの音という共通項が生まれます石川さん

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ワークショップは感覚を開放する体操からスタートしました

ここで鍵になるのがサウンドスケープという概念です現代音楽の作曲家でありサウンドスケープの提唱者でもあるR・マリー・シェーファーによる造語で風景ランドスケープと音サウンドを組み合わせたもの196070年代世界が急速に都市化して騒音が公害として問題視された時代に音を排除すべき悪者ではなく文化的な風景と捉え直す可能性を切り開いた考え方です

石川さんはfor Citiesがこれまでに世界各地で企画したサウンドスケープの事例を紹介してくれました木々を植えて鳥を呼び込み環境そのものから心地よさを設計する公園写真ではなくで街を保存するナイロビのアーカイブそこには音を直接つくる/消すだけではない環境からアプローチする都市デザインの奥行きが感じられます

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ありのままを録らなくてもいい

サウンドスケープのレクチャーを終えたらエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中のYou made me leave home展をスタッフの解説とともにスペシャル・ビューイング

リナの大規模な個展が日本で開かれるのは今回が初めてのことです会場には人の移動と物の移動をテーマとするインスタレーションや彫刻絵画が並びます

展示作品のひとつBlack Noodles2023米国に流通する人毛の8割がインド女性の髪だという事実に着想を得た作品ウィッグやエクステとして髪が国境を越えて売買される現実をリナは搾取として批判するだけでなくある人から切り離された髪が別の土地で別の意味をまとい新しい生き物として生き直すそのダイナミックさを捉えています

貝殻とロープで海底のような風景をつくり髪を魚のヒレのように配して髪型を変えることで別の自分になろうとする人の気持ちの動きとそのための物自体の動きが重ねられています

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写真中央がジュール・ヴェルヌの小説八十日間世界一周から着想した大作In an unnatural storm a world fertile, fragile and desirous, polluted with excess pollination, hungry to seize an untidy commerce also gave an unknowable size to some mongrel possessions, excreted a promiscuous heritage, sprayed her modern love, breathed deeper than any one place arching her back threw new empire, religion, bathed in unseasonable hope to alter what could not be warm2008

もうひとつの大作上・写真中央In an unnatural storm a world fertile,2008ジュール・ヴェルヌの小説八十日間世界一周から着想したもの移動手段が急速に発達した時代の冒険譚を下敷きに旅の高揚感とトラブルや不安がつきまとう恐怖の両面性を表現しています気球を思わせる最上部世界中からかき集められた物が密集する中間部瓶や貝殻で街と道筋を再構成した地上部という三層構造で旅そのものが立体化されています

リナの作品にはしばしば50語を超える詩のようなタイトルが付けられていますそれは移民としてあなたの英語は英語ではないと言われ続けた経験を創作のインスピレーションに変え植民地の言語であった英語を自分の手で揉みほぐし読み替えていく試みタイトルそのものが作品のもうひとつのレイヤーとして機能しているのです

これらの作品はいずれも既製品を見つけてきて組み合わせるファウンド・オブジェの手法によるもの形の均質化に向かう近代化に対しひとつとして同じ形のない多様な自然素材が好んで使われています

街で見つけた音を組み合わせる今回のフィールドレコーディングはいわば“ファウンド・サウンド”のワークショップリナの制作手法とも響き合う試みです

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鑑賞後録音機材を手にした参加者は表参道を象徴する音=サウンドマーク)」を探しに出かけましたフィールドレコーディングは写真撮影と同じ現実をありのままに録らなくてもいいんですと田中さんは参加者に投げかけます

素敵だと感じたら素敵に居心地が悪いと感じたらそのように現実を自分なりに編集して録ることで記録はより豊かなものになるだからこそどんな音を撮ろうとしているかという意図を最初にもつことが大事になります

機材を持つとワクワクするけれど実際にやってみると録音作業はとても地味でストイックな営みです周りからあの人なにしてるのという視線を感じることもありますがそれでも忍耐強く耳を傾ける時間こそが街との新しい関係を結び直してくれますと田中さんは参加者の背中を押します

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参加者それぞれが表参道の思い思いの場所で街の音を収集

表参道なのにあえて人がいないように録ってみる動物の音ばかりを集めてみる心地よい音として聞くのか不快な音として聞くのかその選択自体が街の見方を編集する行為になります

同じ音でも人によって知覚はまったく異なります硬いゴツゴツしているザラザラして不快あるいはスムースで柔らかい for Citiesが用意した音を形や質感で捉えるエクササイズその主観のズレをあえて可視化していきました

減った音が聞かせてくれたもの

国内外の各地でサウンドスケープのワークショップを行うなかで杉田さんはコロナ禍で人間の活動音が減ったとき街中の昆虫や鳥の音を聞きたくなったという参加者からの声があったと印象的なエピソードを語ってくれました

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エスパス ルイ・ヴィトン東京やTakramがある表参道から明治神宮まで足を伸ばした参加者も

田中さんもあの時期に環境音やゆったりした音楽へ注目が集まり自分の過ごす街をどんな感覚で捉えるかという意識が静かに芽生えたと振り返ります

日常の音が失われて初めてわたしたちはそこにあった音の豊かさに気づくのかもしれません

音は時間とともに移ろっていきます例えばケニアの首都であり最大の都市でもあるナイロビでは急速に開発が進みいま録った音が25年後にはまったく違うものになっているかもしれないだからこそ音で街の風景を残す意味がありますと杉田さんは言います

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参加者が集めた表参道の音をサンプリングしながら田中さんが即興的に演奏

イベント終盤では参加者が集めた表参道の音を聞きながら異なる土地の音を交換し混ぜ合わせて架空の物語を描くサウンドフィクションの試みも紹介されました

街中は人工の音であふれていますけれどそのなかに自然の音を見つけたときあるいは一本裏の通りに入って街の表情が変わったとき見慣れたはずの表参道はまったく別の顔で立ち現れます

耳を開くことは見慣れた世界を編集し直すことこの日集められた音は後日一曲の音楽へと生まれ変わりますそれは参加者一人ひとりが外側の視点で聴き取ったもうひとつの表参道の姿として

リナ・バネルジーYou made me leave home

会期:– 2026913
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ·ヴィトン表参道ビル 7F
開館時間12:00 - 20:00
休館日はルイ·ヴィトン 表参道店に準じます
入場無料

Collaborator's Profile

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for Cities

一般社団法人for Cities 東京・京都に活動拠点をもつ都市体験のデザインスタジオ国内外の建築やまちづくり分野でのリサーチから企画・編集教育プログラムの開発まで国や分野を超えて都市の日常を豊かにすることを目指して活動している都市に関わるプロジェクトや実践者を収集するプラットフォームforcities.orgを通した国内外のアーバニストたちとのネットワークを活かしこれまでにこれからの都市を考えるうえで必要なスキルを学ぶ学びの場Urbanist Schoolや展覧会for Cities Weekを東京・ナイロビ・カイロ・ホーチミンなど国内外の都市で実施若手の人材育成などの独自企画ほか行政や民間企業大学などと共にさまざまな種類の活動を行なっている

for CitiesWebsite / Instagram
石川由佳子:https://linktr.ee/YukakoIshikawa
杉田真理子:https://linktr.ee/MarikoSugita

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田中堅大|Kenta Tanaka

1993年東京都生まれブリュッセルと東京を拠点にする都市音楽家/サウンドアーティスト/ギタリスト都市の現象を音楽やサウンドアートに応用する都市作曲Urban Composition)」の可能性を模索している主な作品として複数の都市の連動性を模索するUrban FlouMercerieブリュッセル 2024都市のオブジェクトを可聴化するAlgorithmic Urban CompositionCCRMAカリフォルニア 2019などこれまでベルギースペインフランスアメリカケニアなど国内外でサウンドアート作品の展示発表を行っている 音楽家として都市の環境音を通奏低音にモジュラーシンセサイザーとギターの変調音を並行させることで音楽制作を行っている主な音楽作品としてPoetics of Non-Savoir2025がある音楽を取り巻く環境への批評zinejingleの企画・編集・デザインや26人のメンバーから構成される現代版オーケストラ蓮沼執太フルフィルへの参加など音と音楽を中心に多岐に渡る活動を行っている 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクス・デザインプログラム修了デザイン ベルギーゲント王立芸術アカデミー/音楽院 European Postgraduate Arts in Sound修了サウンド

田中堅大:kentatanaka.com

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Takafumi Yano
Culture & Relations, Editor
メディアを越えて人や事象の媒介となるエディターメディアプランニングにとどまらず編集という手法を用いてコミュニケーション場づくりなど多種多様なアウトプットに対応する企業PR誌などの編集制作からキャリアをスタートし編集ワークショップスーパースクール11にて 編集者/クリエイティブディレクターの後藤繁雄氏に師事その後生活実用誌暮しの手帖テックカルチャーメディアWIRED日本版でプリントやデジタルコンテンツ制作などを手がける趣味は100km超の野山を駆け抜けるウルトラディスタンスのトレイルランニング