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Apr 8, 2026/Writing

未完成をつくるデザイン ── TakramCircular Design 02

“広義”の名の下にデザインが課題解決という本来的な役割を取り戻すなかでデザイナーに求められるマインドセットとはいかなるものか ──Circular Design Week 2025CDW2025への参加をきっかけに思いを同じくするTakramメンバーでいま改めてデザインの前提を問い直すシリーズTakramCircular Design今回はCDW2025でのリサーチからの気づきから導き出した2つのデザイン仮説について
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現代のビジネスは短期合理性によって強く駆動されていますKPI四半期決算生産サイクル出荷計画などほとんど例外なく近代的な時間のなかで人間中心に設計され効率やスピードを重視することで多くの価値が生まれてきました

しかし最適化の名の下に地球環境や文化を含めた営みや信頼関係といった長期的な価値が毀損されてきたことも明らかになっています季節風土儀礼発酵関係の成熟といったものは単純に目的から逆算した効率では捉えきれないものです

一方で長期価値を重視しようとすると経済合理性との両立が難しくなるその結果わたしたちはいまもなお短期か長期かという二項対立のなかに留まっています

この記事ではこうした対立をほどくための別の可能性を探っていきますどちらかを選ぶのではなく状況に応じて短期合理性と長期価値を自然に切り替えられる状態をデザインすることもしその状態が実現できれば持続可能性は高い倫理観に訴えるようなものやあるいは我慢して続けるようなものではなくなっていくはずです

Takram202511Circular Design PraxisRE:PUBLICが主催するCircular Design Week 2025にパートナーとして参画し京都でのフィールドリサーチを通じてこの仮説を検証しに出かけました

もう一方の世界を見るために

今回のフィールドワークではCircular Design Praxisが提案する感応attunementメソッドを用いましたこれは課題や仮説を先に設定して持ち込むのではなくその場固有の時間や環境に身体を没入させることで近代的な時間の流れでは見落としている複雑な世界を観察する方法です

そこで見えてきたのは単なる伝統や長期的価値の礼賛ではなく短期合理性と長期価値のあいだを行き来するいくつかの具体的な実践でした

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京都から抽出した2つのデザイン仮説

京都で観察した実践を整理すると2つのデザイン対象が浮かび上がってきましたいずれも短期と長期どちらか一方の極を選ぶものではなくむしろ両極のあいだの往復を成立させるデザインです

1. 愛着的寿命 関係を更新し続けるプロダクト・サービス
近代的なデザインでは多くの場合成果物が価値の中心に置かれてきました完成された建物や製品サービスが成果として評価されますしかし京都で目にした実践では成果物はむしろプロセスの起点として扱われていることが少なくありませんでした

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亀岡の砥石館で出合い直した砥石そのひとつ庖丁は研ぎ直しながら長く使い続ける道具であり切れ味が落ちれば研ぐという行為をユーザーに促します

研ぐ場所に指先を置きわずかに力を加え刃を15度に保ちながら前後に動かす砥石が擦れ合う感覚に集中するうちに次第に摩擦がなくなって一体化していく刃を介して身体と砥石が採れた二億五千万年前の大地とのつながりを想起させますここで提供されているのは単なる道具ではなく道具と人と大地との関係を変化させる装置です

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竹中工務店の山崎篤史さんらが手がけた大阪・関西万博の森になる建築には3Dプリントされた生分解性樹脂と生物多様性の観点から選ばれた種子を漉き込んだ和紙が用いられました

会期中訪れる人によって和紙が貼られ手入れがされていきますやがて会期や役割を終えると兵庫県の清和台の森へと帰りゆっくりと朽ちることのできる建築の死があらかじめ計画されていました

建築や維持管理のプロセスに人の手が介在するように設計することで建物は地域の一部となり次世代へ継承されるべき愛着が醸成されていきます

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引用:竹中工務店万博会場内“大地の広場”に休憩所として設置されるイメージ図

このように成果物がプロセスを誘発しプロセスが成果物や環境との関係性を更新する庖丁も建築も物質的な寿命ではなく愛着的寿命のもとで生きながらえることができますここでデザインされていたのは完成されたモノではなく時間のなかで変化し続ける関係そのものでした

  

2. 場に保存された知識 共事者を増やす組織デザイン・ガバナンス
近代的な組織は多くの場合統制カバナンスによって成立しています役割と責任が定義され意思決定は階層的に行われる統制は組織を安定させますが同時に人と人人と環境との関係を断絶させる側面ももっています

一方で長期的な関わりだけでは参加のハードルが高くなりすぎるそのあいだを往復できるとき人は無理なく関わり続けることができる鍵を握るのは知識やスキルのあり方です取材した保津川遊船企業組合の豊田知八さんのお話にはそのことがよく表れていました

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保津川遊船企業組合の代表理事豊田知八さん

保津川下りの運航には組織としてのルールや役割も存在していますが船頭たちは天候ひとつで変化する川床の機微を見抜き必要な道具があれば自らつくりますまた重機が入れない保津川では大雨など災害が起きれば人の手で岩や石を動かすことで流速を適度に整えますこうした営みを支えているのは単なる個人の技能ではありません

それは亀岡の地形や水の流れそして歴代の船頭たちの実践の中に蓄積されてきた場に保存された知識ですマニュアルとして形式化されたものでもなく個人に属するものでもない人と環境との関係のなかに知識が保持され身体を通じて引き出される知ですこのとき統制と協働は対立せずむしろ統制は現場の柔軟な判断を支える条件として機能します

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引用:⻄国三⼗三所観⾳巡礼保津川下り

この視点は責任の概念も再考させます鹿児島大学の難波美芸さんが研究するラオスをはじめとした世界各地で見られる流れ橋増水すれば流失することを前提に設計され流されるたびに近隣住民によって架け直されますリスクやメンテナンスを専門家に外部化せず使い手が自らが関わり続けますここでの責任の意味とは他者から課される義務ではなく変化に対して自ら反応し行動する応答可能性へと変化します

ここから導かれるのが共事者という関わり方です課題を一部の当事者や専門家に委ねるのではなく外部の人々や未来の世代も含めてことを共にする者として関わる強い責任主体として問題を引き受ける存在ではなく個人的な関心や違和感を起点にゆるやかにしかし継続的に関わり続ける存在です

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知が環境と身体と関係のなかに分散して保存されているからこそ人は完全な専門性や責任をもたずともその一部に参与することができますそうしたシステムから外部性を排した営みのなかにこそ制度や個人の自発性に過度に依存しない本質的な持続可能な関わりが見出せるのではないでしょうか

未完成をデザインする

ここまで見てきた2つの実践は対象こそ異なれど共通する構造をもっていますそれは成果物を終点ではなく関係を更新し続ける起点として扱うことそして知識や責任を個人や組織の内部に閉じず環境や関係のなかに分散させることこの2つが重なるときプロダクトや組織は固定されたものではなく関係のなかで変化し続ける“場”として立ち現れます

そこでは短期合理性と長期価値は対立せず必要なときには効率的に機能し別の瞬間には時間をかけて関係が育まれますその切り替えは理念や意志によってではなく状況のなかで自然に起こるようになります

この状態を可能にしているのがあえて“完成させない”設計でした

完成されたシステムは効率的であるものの変化への応答を難しくします一方で未完成のまま開かれたシステムは手入れや関与の余地を残し続けます人はそこに関わり更新し離れまた戻ってくることができるつまり未完成であることは不完全さではなく関わりが生まれ続けるための条件でした

京都で見た実践は伝統を守っているのではなくよく練られた未完成の状態を保ち続けること意図的に破壊と創造の循環を織り込み続けること結果的に長い時間を生き延びてきた営みだと言えるのかもしれません

短期か長期か効率か持続可能性かどちらかを選ぶのではなく往復し続けられる状態を設計することそのときはじめて持続可能性は特別な努力ではなく日常の営みのなかに自然に立ち現れるものになるのではないでしょうか

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03では202511月にNTT都市開発 デザイン戦略室とTakramとで実施したポップアップスペースAuthors Harajukuの取り組みについて掘り下げていきます直進する経済と迂回する経済バザールとクラブ両極にある概念を往還した試みを振り返りながらCircular Designの可能性について探索します
03 : NTT都市開発 デザイン戦略室との新しいまちづくり編につづく
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Megumi Kanno
Business Designer, Project Director

慶應義塾大学総合政策学部在学中デザインシンキングやデザインリサーチスペキュラティブデザイン等を学ぶ卒業後は株式会社ADKにてストラテジックプランナーとしてナショナルクライアントからスタートアップ企業まで数十社の多様なカテゴリのマーケティングやブランディングを国内及びグローバル市場に向けて担当

2019年よりTakramに参加エンジニアリングやクリエイティブとビジネスを架橋するビジネスデザイナーとして長期成長性や耐久性のあるビジネス創造・支援に取り組む

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Takafumi Yano
Culture & Relations, Editor
メディアを越えて人や事象の媒介となるエディターメディアプランニングにとどまらず編集という手法を用いてコミュニケーション場づくりなど多種多様なアウトプットに対応する企業PR誌などの編集制作からキャリアをスタートし編集ワークショップスーパースクール11にて 編集者/クリエイティブディレクターの後藤繁雄氏に師事その後生活実用誌暮しの手帖テックカルチャーメディアWIRED日本版でプリントやデジタルコンテンツ制作などを手がける趣味は100km超の野山を駆け抜けるウルトラディスタンスのトレイルランニング