
ウォーホルから学ぶ「ルールハッキング」の可能性
Ways of Seeingは、新たな視点や深い洞察を通して、アートの楽しみ方や日常での豊かな気づきを引き出すことを目的としたプログラムです。アートの外側からの視点をもたらしてくれる多彩なゲストとともに、アート、あるいはアーティストを考察していきます。
第1回「Rules: Limits or Driver?」では、法律家の水野祐氏に法的側面からアンディ・ウォーホルを読み解いていただきました。水野氏は、著作権・知的財産権、さらにはAIや3Dプリンターなど新技術と法の接点に詳しく、アーティストやクリエイターの創作活動を法的側面からサポートしています。
今回のトークテーマは、ルールメイキング。ルールはクリエイションの制約か、それとも原動力か。多くの人がルールを“縛り”と捉えがちななか、いかにしてクリエイションやビジネスを飛躍させる“ジャンプ台”として機能させるか。参加者とともに、ウォーホルの実践や手法を通してヒントを探りました。

法律家。弁護士(シティライツ法律事務所、東京弁護士会)。Creative Commons Japan理事。グッドデザイン賞審査委員。慶應義塾大学SFC非常勤講師。note株式会社などの社外役員。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社)、共著に『ルール?本 創造的に生きるためのデザイン』(フィルムアート社)、連載に『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』(WIRED日本版)など。
水野氏が挙げたキーワードは、「ルールハッカーとしてのアンディ・ウォーホル」です。言わずと知れたポップアートの巨匠アンディ・ウォーホル。「その代表作であるキャンベルのスープ缶、マリリン・モンローに代表される初期のシルクスクリーン作品は、著作権・商標権・肖像権・パブリシティ権の観点からいえば、グレーか黒に近い領域から出発していた」と、水野氏は考えます。
しかし、当時は米国といえども作品の権利に比較的寛容な時代だったこともあり、そもそも訴訟にまで至らなかったり、訴訟に発展しても和解に至るケースが多くありました。その過程でウォーホルやその作品の名声が爆発的に高まるなかで、社会に「アプロプリエーション」(流用)という概念と手法が広く知られるようになっていきます。
その流れは、1990年代に米国著作権法107条のフェアユース(公正利用)規定における最高裁の判断基準である「変容的利用(Transformative Use)」理論の確立にもつながっていったのではないかと水野氏はいいます。

フェアユースとは、ひと言でいえば目的が公正(批評、報道、教育・研究など)であれば著作権侵害にならないとする考え方。目的・質・量・市場への影響の4要素を総合的に判断します。
変容的利用とは、元の著作物の単なる複製ではなく、新しい表現や意味・メッセージを付加し、異なる目的で用いることで、このような目的が認められる場合にはフェアユースだと判断されやすいとされてきました。そして、さらに興味深いのは、この理論は、アートなどの表現分野だけでなく、検索エンジンやAI学習など、米国における新たなサービスを適法化する装置=エンジンとして機能してきたことです。

また、ウォーホルは、“大量生産される芸術”という概念を打ち出し、それを価値化し、市場に流通させたアーティストでもあります。
ウォーホルは、”アーティスト”という存在そのものを“制度化・法人化”するかのように、シルクスクリーン作品を工場のように量産する制作拠点「ファクトリー(The Factory)」の構築をしていきます。それは、芸術作品は作家本人によるものであるというアートにおける真正性(Authenticity)のルールをハックする行為ともいえます。
ウォーホルは、「ビジネスは最高のアートである」という自身の言葉どおり、アートの概念と手法をビジネスと接続してみせました。ルールを回避するのではなく、その境界を試し、更新していく。そんなウォーホルの姿勢が、いまもクリエイションとビジネスの両方に、有効な問いを投げかけています。


ジョナス・メカスの眼が捉えたウォーホル
第2回「SCENES FROM THE DIARIES」では、移動映画館キノ・イグルーによるCINECLUBを開催。キノ・イグルーは東京を拠点に、ほぼ毎週のように商業施設、カフェ、パン屋、酒蔵、美術館、無人島など全国各地のさまざまな場所で、世界各国の映画を届けています。
上映作品は、“米国実験映画のゴッドファーザー”と称される映像作家ジョナス・メカスによる『SCENES FROM THE LIFE OF ANDY WARHOL』。
この作品は、1990年6月にパリのポンピドゥー・センターで開催された「アンディ・ウォーホル・レトロスペクティヴ」のために、これまでに撮り溜めた膨大な日記フィルムのなかから友人でもあるアンディ・ウォーホルに関わる断片を抜き出し、編集したものです。

アンディ・ウォーホルにまつわる映画は数多あれど、なぜ『SCENES FROM THE LIFE OF ANDY WARHOL』だったのか。その意図を有坂氏は次のように話します。
「この映画をウォーホル作品に囲まれた中で見てもらいたいと思ったのは、その時代の空気感やウォーホルがどのような人たちと交流していたかを文字では知っている人がいても、どういう表情で、どういう距離感で、いわゆるセレブと呼ばれる人たちと付き合っていたのかを映像で見たことがある人が少ないと思ったからです」

2003年に中学校の同級生である渡辺順也と移動映画館キノ・イグルーを設立。東京を拠点に全国各地の商業施設、カフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。ほかにも、映画カウンセリング「あなたのために映画をえらびます」、毎朝インスタグラムに思いついた映画を投稿する「ねおきシネマ」、著書『18歳までに子どもにみせたい映画100』(KADOKAWA)などを通し、自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
映画にはウォーホルはもちろん、ビート・ジェネレーションを代表する詩人アレン・ギンズバーグや、ルー・リード、ニコ、イーディー・セジウィック、ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、ポール・モリセイ、ミック・ジャガー、デニス・ホッパー、ジャクリーン・ケネディ・オナシス......と多士済々が出演しています。
16mmフィルムのハンディカメラを携えたメカスは、この作品でニューヨークのアートシーンで映画・音楽・アートの垣根を越えて、さまざまなアンダーグラウンドな表現をするアーティストたちが同時多発的に出てくる様子を捉えます。

時代の目撃者であるメカスは、ニューヨークの伝説的なナイトクラブ〈Studio 54〉でのウォーホルの様子について、「決して騒ぎの中心には立たず、いつも隅で人びとを静かに観察し、ポラロイドを撮り続けていた」と述懐しています。
その観察する眼差しこそが、大量消費社会の象徴や人びとをシニカルかつ客観的に捉え、ポップアートの源泉になったのではないかとも触れています。

メカスは、最晩年までビデオカメラをはじめ、さまざまな“装置”(なんとスマートフォンまでも)を使いながら身辺での出来事を記録し続けました。なにがそこまで突き動かすのか ── 。
リトアニアから米国へ亡命して英語に不自由だったメカスは、自身の映画制作を「自己防衛」と表現しました。それは感覚や存在全体を守り、日常のささやかな事柄に注意を向ける行為でもあったからだと自身でも語っています。
また、メカス作品は、従来の映画のように一本の作品を仕上げることを目的に撮られたものではなく、社会と向き合うために記録し続けた“アーカイブ”が、さまざまなテクニックを駆使して作品へと結実していったものであるということ。映画史において、このような制作のあり方は稀有なものであると有坂氏は解説します。

そして、2026年のいま観るとメカスの作品はとても現代的に感じられる、と続けます。日々の記録と編集のスタイルは現代のVlogやライフログ、Instagramのリールに通じるものがあり、若い世代が意外な共感を覚えるかもしれないからです。
上映会はジョナス・メカスの眼を通して見るアンディ・ウォーホルと、メカスの代名詞ともいえる日記映画を堪能する一夜となりました。


「ANDY WARHOL – SERIAL PORTRAITS」展の会期は、2月15日(日)までとなっています。さまざまな表現手法をもつアンディ・ウォーホルですが、そのなかからポートレイト作品にフォーカスしたユニークな展覧会となっています。
なかにはイラストレーターとしてのバックグラウンドを感じさせる人物のドローイング作品も見られる大変貴重な機会です。会期は残すところ約1週間。まだご覧になっていない方、あるいは最後にもう一度という方は、お見逃しなく。
アンディ・ウォーホル 「SERIAL PORTRAITS – SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION」展
会期:– 2026年2月15日(日)
※2/7(土)・8(日)・11(水・祝)15:00~展覧会解説ツアーあり(事前予約不要、所要時間約15分)
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京(東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ·ヴィトン表参道ビル 7F)
開館時間:12:00 - 20:00
休館日はルイ·ヴィトン 表参道店に準じます。
入場無料






