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Mar 13, 2025/Interview

育てるデザインシステムとオープンな組織文化づくり
── Serendie Design Systemの舞台裏

宇宙から家電まで幅広い事業分野を有する三菱電機の共創の推進とデジタルサービス創出を加速するSerendie Design SystemセレンディデザインシステムTakramこのデザインシステムのデザインから開発までを一気通貫で手がけましたその規模ゆえにサイロ化しがちな企業がなぜデザインシステムを開発したのか ──プロジェクトをリードした三菱電機の飯澤大介さん伊藤槙紀さんとTakram出口貴也山田水香がSerendie Design Systemの真の狙いを語ります
Credits:
Photography:
  • Ayumi Yamamoto
Text:
  • Asuka Kawanabe
9min read

デザイナーが少ないからこそデザインシステムが必要

── 三菱電機には従来からデザインガイドラインがあったと思いますが今回新たにデザインシステムをつくろうと思った背景を教えていただけますか

飯澤大介以下飯澤 たしかにこれまでもガイドラインは存在していました20234月に事業部をまたいでデジタルサービス・基盤を構築することをミッションとするDXイノベーションセンターが設立されたのですがここで統一的な基準が必要となったんです事業環境に違いがある分事業別に個別に進めると差が出てきてしまうので

またDXイノベーションセンターは従来のような個別最適ではなく異なる事業間で横断的に利用できるウェブAPIのようなコンポーネントの提供を重視していますこの考え方に沿ってデザインガイドラインからもう一歩エンジニアリング領域に踏み込んだデザインシステムの構築を進めようということになりました

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飯澤大介|Daisuke Iizawa
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部 次長博士学際情報学1998年入社携帯電話車載機器産業機器家電など多岐にわたるUI/UXデザインに従事しデザイン思考の導入デザインエンジニアリングCXBXといった幅広い領域でプロジェクトをリード2023年からは現職で社内外の共創や新規事業創出の企画を担当する

そもそも三菱電機は宇宙から家電まで幅広い事業分野を有していますしかしその多様な事業分野でつくられるプロダクトすべてにUI/UXデザイナーの手が行き届くわけではない現実があります実際に社内にはデザイナー不在で開発されているプロダクトも多くそうした現場での課題解決のためにデザインシステムは重要だと考えました

── DXイノベーションセンター設立当初からデザインシステムの構築を視野に入れていたのでしょうか

飯澤 実はデザインシステムのことまでは考えていませんでしたただ私はデザイン領域出身なので組織にデザイン思考やサービスデザインの視点が必要だという考えは最初からもってはいましたね

そもそもDXイノベーションセンターのメンバーは三菱電機での経験が豊富なメンバーが多く特にエンジニアリング系やR&D系のメンバーはフロントエンドの開発やUI/UXデザインに相当な苦労を経験してきましただからこそアジャイル開発やサービスデザインの文脈で議論を重ねるなかでデザインシステムの重要性が自然と認識されたんです予想以上に多くの方から賛同を得られたことを考えると潜在的に必要性は強くあったのだと感じます

── そもそもデザインシステムをつくることにはどのようなメリットがあるのでしょう

出口貴也以下Degoo ひとつは車輪の再発明を防ぐことつまり同じものをつくり続けることをやめるということですね

またアジャイル開発におけるナレッジの蓄積という側面もあります三菱電機はアジャイル開発を社内で定着させたいという意思があるなかフィードバックループの設計が必要になりますいかにしてユーザーのフィードバックをデザインシステムにためていくかデジタル資産として早期につくって複利で効果を波及させていくんです

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Takram 出口貴也degoo

加えて外部公開による効果もあります外部にデザインシステムを公開することで三菱電機のものづくりの姿勢を示すことができそれは外向けでありながら社内文化の醸成にも繋がります

そして社外のデジタル人材に三菱電機を将来のキャリアの選択肢として検討してもらうための材料にもなります同様の事例はテック系企業では多くありそこに三菱電機のような企業が加わることのインパクトは大きいと考えました

変化と維持のバランス

── 実際にデザインシステムを構築するにあたってなぜTakramに依頼されたのでしょうか

飯澤 Takramとは以前私がデザイン部署にいた際のブランドマネジメントプロジェクトでご一緒したんです私自身はブランドからUI/UXまでを一気通貫で考えたいという思いがありDXイノベーションセンターとしてエンジニアリングとの接続を重視するかたちでTakramにご相談をしましたSerendieのデジタル基盤は技術基盤から共創基盤人財基盤プロジェクト推進基盤まで多岐にわたるのでエンジニアリングとデザインの越境を実現できるTakramとの協業は組織的な納得感も得られやすかったです

Degoo 依頼をいただいた当初は具体的なプロダクトの内容がまだ固まっていませんでした何をつくるかとどうつくるかを考える必要があったんですよね通常のデザインシステムは既存サービスがあってからの構築が多いのですが今回はあらゆることが同時進行ですそのため仮想のSaaSを想定してプロトタイピングを行なうなどTakramらしいアプローチで進めていきました

── Takramではどのプロジェクトでも最初にインタビューを行ないますよね

Degoo 今回も役員の方を含め約10人にインタビューをしましたデザインシステムの運用においていちばん重要なのは育てていく部分ですそれを3万人規模の大企業かつデザインシステムにかかわった経験のある人も少ないという状況のなかでどう進めるかを考えなければなりませんでした

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今回の取材は20251月にオープンしたばかりの共創空間Serendie Street Yokohamaセレンディストリート横浜)」の共創エリアで行ないました

── 今回KESIKI&Formが親ブランド SerendieのビジュアルアイデンティティVIをつくったあとからTakramがそれを継承しデザインシステムに展開するという順番をとっていますどう進めていきましたか

山田水香以下Pasmo)  今回は親ブランドである SerendieVIガイドラインをもとに特にカラーやグラフィックエレメントの使い方でTakramなりの解釈を入れつつ噛み砕いていきましたKESIKIさんと&Formさんがめざすものを理解し三菱電機として与えたい印象と擦り合わせるために

ここで難しかったのはどこにアンカーを置いてビジュアルを展開するかを考えることでした決め過ぎないVIダイナミックアイデンティティ固定されていないプライマリーカラーなど自由度が高かった分どこを重視するかを探らなければなりませんでした

そのなかでセレンディピティを表現する要素としてモーションカラー図形がありカラーの組み合わせを工夫しましたポップ過ぎない印象のため矩形のサイズ差でメリハリを出しつつモーションでおもしろい動きを加え5つのカラーテーマを設定して切り替わっていく仕組みをつくったんです

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Takram 山田水香pasmo

── カラーテーマはどう決めたのでしょうか

Degoo 決め方は悩みました家電から宇宙まで幅広い事業に対応できるカラーにしようという点とこのSerendie Streetから新規事業が生まれてくるだろうと考え場のコンセプト資料を読み込んだうえで暖色系やアースカラー的なテーマを追加するなど意識して取り組みました

飯澤 デザインだけでなくエンジニアリングの視点も入ったデザインエンジニアリングとしてVIをしっかり料理してくれた点は打ち合わせを重ねるなかで納得感が共有できていて非常に興味深かったですね

DXイノベーションセンターにはプリンシプルがありますが変えていくという思いは全員がもっています既存のサービスに合わせるのではなくそれを踏まえたかたちで出して少しずつ皆が感化されて変わっていくイメージを共有できていたと思います

伊藤槙紀以下伊藤 Serendie Streetの中で使うものとしてつくったデザインシステムですが既存事業からも使いたいという声が上がってきていますこれはうれしい誤算でした

オープンにすることの意味

──今回デザインシステムを社外にも公開していますがどのような議論がありましたか

飯澤 フルオープンにするか一部公開にするかどういう環境で公開するかなどさまざまな議論をしましたそのなかでスケールを広げUI/UXだけでなくサービスづくりの考え方を共有する人を増やすことを優先したんです社外の方との共創も想定している場なのでフルオープンにしようと

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伊藤槙紀|Maki Ito
三菱電機株式会社 統合デザイン研究所 産業システムデザイン部 産業HMIDグループ2018年入社UI/UXデザイナーとしてエネルギーシステムなどのBtoB向け製品を担当並行して社内に蓄積している大量データの可視化を行なうデータビジュアライゼーションデザイナーとしても活動する

Degoo 最初に公開すべきだと思ったのは伊藤さんから聞いた話がきっかけでした以前事業分野ごとに異なるデザインシステムを検討していたとお聞きして部門が違えば本当に別組織だということを実感しましたそのうえで今回はどうしようかというところが参考になっています

デザインシステムを使うにあたって承認プロセスが発生すると心理的なハードルが生まれ面倒だから後で自分たちでつくろうという判断につながり車輪の再発明が起きやすくなりますだからこそいっそ社外公開してしまうことで社内の誰もが自由に使える状態になり採用などのアウターブランディング効果も期待できると考えました

── 公開してみてどうでしたか

伊藤 公開してよかったです社内ポータルだけの発表ではそうなんだで終わることが多いなかXTwitterアカウントでの発信に社内の人が興味をもって問い合わせてくるなど社外公開が最大のインナーブランディングになりました100人くらいフォロワーが増えました

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飯澤 実際われわれとまったく関係のない社外からの問い合わせもありコミュニティとまではいかなくてもSerendie Streetという場で外部に開かれた発展が見えてきそうです

── ただ公開するだけではなく浸透も必要となるわけですがどのように発信をしていきましたか

伊藤 成長するデザインシステムにはコミュニティの場が重要です社内ではTeamsでコミュニティチームを立ち上げSharePointで内部向け情報を提供しウェブサイトで外部発信を行なっています300人規模の社内説明会や100人規模のブートキャンプも開催しましたスキル別にUIデザインコーディングという2回のブートキャンプを実施したんです

飯澤 デザイン部署とエンジニアリング部署が分かれている会社でUIのワークショップにエンジニアが参加したりコーディングにデザイナーが参加してくれたり予想以上の越境が見られたのもよかったですこのインサイトは今後のコミュニティ運営に活かせると思います

伊藤 出口さんからも意見を吸い上げる場の重要性を教わったので今後は月1回なり隔週で定期的なイベントの開催を計画していますコアユーザーを集めて使用事例や改善要望を共有する場を設けたいと考えています

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── 先ほどデザインシステムの運用でいちばん重要なのは育てることというお話がありましたがこれから育てていくにあたって必要なことはなんでしょう

Degoo まず伊藤さんのようなインハウスデザイナーがリーダーとして推進役を担うことが重要ですよくある兼業型のボトムアップでは誰も責任をもたないことで先に進まなかったり途中で止まってしまうケースが少なくないからです

次にオンライン/オフライン両方での意見収集の場を設計することですGitHubでユーザーとのフォーラムをつくり気軽に意見を投稿できる場を設けたりただしこれがデザインシステム運用チームへの開発依頼になってしまわないよう一緒につくっていく場づくりを意識しています

Xでのエゴサーチもフィードバックとして活用していますスタートアップにおけるプロダクト開発のようにユーザーの声を取りに行きつつ柔軟に方向性を決めていくことが重要なので

── デザインシステムは制作の効率化だけでなくサイロ化した組織に横串を刺す役割もあるんですね

Degoo はい車輪の再発明防止はわかりやすい目的のひとつですがそれだけなら他社が公開している既存のデザインシステムを使うのでもいいサイロ化を防ぐコミュニティづくりとそのための内省が重要なポイントなんです

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飯澤 DXイノベーションセンターとしてはマインドセットの変革を横展開することが重要なんですデザインシステムを使って自分たちでフロントエンドデザインやサービスのあり方を考えコミュニティにアクセスする流れが生まれることを期待しています

伊藤 しかもそれを人知れず行なうことが重要なのだと思いますマインドセット変革を直接的に言うのではなく便利さや簡単さをアピールし使うなかで自然と変化していくのが理想です

── そのためのツールとしてもデザインシステムは有効なんですね

Pasmo 日常的に使うアセットは自分事化の入り口としてもいいと思います

Degoo マインドセット変革では予算が取りにくいですが車輪の再発明防止なら理解されやすくコストメリットも計算しやすいですからね

── 確かに抽象的なビジョンは同じ方向を見ていても違う絵を見ている感じがありますがコスト削減効果は具体的で分かりやすいただしそれは入り口でその先に本当の目的がある

伊藤 気付いたら浸透しているのが理想的ですね

── システムへのフィードバックだけでなく周囲のリテラシー向上や新しい発展につながりそうですね

飯澤 まさにそうなってほしいです実際ある会議で予想外の部署が高品質なプロトタイプを見せてくれてSerendieのデザインシステムを使っていると言われた時は感動しましたそこから仲間意識が生まれ共通言語ができることでツールとしての効果が広がっていくのがおもしろいです

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Takaya Deguchi
Design Engineer, Service Designer, Project Director
サービスデザインとWebエンジニアリングを軸に持続するプロダクトづくりを目指すクックパッドやSaaSスタートアップ複数社にてプロダクト責任者や取締役CXOとして01の事業立ち上げに従事事業会社のなかでBTCの狭間を歩みつつ2023年よりTakramに参加三菱電機Serendie Design System立ち上げなどを担当並行してポッドキャストresize.fm運営スパイスビネガードリンクRINDA企画販売スタートアップのプロダクト開発支援5mとして活動家につくったサウナに入りビカクシダに囲まれて整う日々
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Suika Yamada
UI/UX Designer
東京藝術大学デザイン科在学中にデザインや表現について多面的に学ぶコミュニティデザインを含むソーシャルデザインの潮流に触れものだけでなくことのデザインを学ぶためにデンマークへ留学Communication designを学びながらデザインの社会への関わり方を観察する使う人の体験からプロダクトとの接点までを一貫して考えるUI/UXデザインを中心領域とし帰国後は株式会社リクルートにてデジタルプロダクトのグロースや新規立ち上げ案件のデザインマネジメントを行なう2022年よりTakramに参加リサーチやデジタルプロダクトのプロジェクトなどで活動する傍らフリーランスとして地方自治体や伝統工芸のつくり手を支援するデザインプロジェクトなどに携わる